退職後の従業員へ競業避止義務を課すにはどうする?企業が注意すべきこととは

退職した従業員に関して問題が生じることがあります。そのうちの一つが「競業」です。競業を自由に認めてしまうと、大きな損失を被ることにもなりかねません。そのため場合によっては、競業避止の義務を課すよう検討しなければいけません。

ここでは、この競業避止義務に関して、その概要や、義務を課すために企業がすべきことなどをまとめています。

目次

退職した従業員への「競業避止義務」とは

競業避止義務とは、「自社と同類の業務を別で遂行してはいけない」という義務を意味します。

ある企業に勤めていた従業員がその期間に特別なスキルやノウハウを身に付け、退職後、その技術を活かして同じ業種で開業することがあります。これ自体悪い行為ではありませんが、やり方次第で特定企業に直接的な損害が生じることもあります。

これを防ぐために企業が課すのです。その態様は多様で、特定ジャンルの業務に関して広範に禁止するケースもあれば、短期間だけ禁止したり特定エリアでのみ禁止したり、どちらかと言えば限定的に課されるケースが多いです。

また、退職した従業員が当然に負うものではありません。別途規定を置いたり契約をしたりすることでこの義務が発生するのです。特別な、自社特有の技術によって経営が成り立っているような企業は、退職した従業員の動きにも配慮し、この義務を課すよう取り組むべきでしょう。

なお、禁止対象の範囲も様々です。従業員が自ら開業するケースのみならず、競合他社への転職・協力なども禁止し得ます。ただ、もちろん一企業が個人に対しなんでも好きに制限できるわけではありません。合理的な範囲、必要最小限で認められますので、トラブルのないようにしなければなりません。

競業避止義務は退職後どれだけの期間課せられるのか

義務を課す企業側、義務を課せられる従業員側双方、期間は気になるところかと思います。しかしながら、そもそも法定の義務ではなく当事者間の約束事であるため、期間についての決まりは明示されていません。そのため、その他のルールなどの鑑み「合理的であるかどうか」という点で判断します。

一般的には半年~1年程度の制約は認められやすいです。

他方、2年を超えてくると否定される可能性が高くなってくると言われています。

そのため、企業は安易に期間を設定するのではなく、禁止する行為の内容とよく照らし合わせて必要な期間を算出することが大事です。

どうやって競業避止義務を課す?

当然に発生する義務ではないと説明しました。

そこで気になるのが義務を課す手法です。

その手法としては大きく2パターン、1つは「就業規則を定めること」、もう1つに「個別に誓約書にサインしてもらうこと」が挙げられます。

就業規則に定める場合、例えば以下のように条項を置きます。

第○条 従業員は、退職後6ヶ月間、競合事業の経営及び競合他社への就職を禁止する。

これは非常にシンプルな例ですので、実際には仕事内容やその他様々な事情も考慮して作り込むことが必要です。

個別に作成する誓約書の場合だと、例えば以下のようなものを作り、これにサインをしてもらいます。

貴社の許諾がない限り、退職後6ヶ月間、以下の行為をしないことを誓約します。
1.貴社で従事した・・・の開発、及び同種の開発に係る職務。
2.・・・

誓約書へサインをしてもらうタイミングに特に決まりはありませんので、退職時のみならず、入社時や在職時でも可能です。

競業避止義務の内容には合理性が必要

就業規則や誓約書で義務の内容を定めたとしても、その後有効性に関して争われ、無効と判断されてしまう可能性もあるため注意が必要です。

実際、裁判で、無効とされた例も少なくありません。まず企業が注意すべきことは「ひな形をそのまま使わない」ということです。とりあえず条項を設けた、といった形だと、無効になってしまう可能性が高くなるだけでなく、自社に損害が生じないようにするという本来の目的を果たせないおそれも出てきます。

次に、何をどのように禁止するのかよく考え、「制限の内容が合理性を持つようにする」ことを意識して作成しましょう。合理性の有無に関しては画一的な判断ができるわけではありませんので、弁護士など、専門家に相談しつつ慎重に策定するようにしましょう。

なお競業避止義務の有効性に関して、経済産業省の参考資料が公表されていますので、そちらも参考にすると良いでしょう。

https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/handbook/reference5.pdf

競業避止義務違反があったときの対応

違反行為があったかどうか、企業も常に退職者に対しアンテナを張るわけにはいきませんので、なかなか発覚できないことが考えられます。しかし違反に気が付いたときには被害がそれ以上広がらないよう迅速な対応を心掛けなければなりません。そのためにも、まずは具体的に生じ得る損失の内容を挙げていきましょう。その内容に応じて以降の対応方法が変わってきます。

違反があっても小さな損失しか生じないのであれば、対応にかかる労力や時間、コストのほうが大きくなることもあります。そのため放置するという選択も視野に入れます。

他方、無視できない場合には早急に弁護士を付けて、就業規則や誓約書などの証拠を収集するとともに相手方に違反行為を止めるよう呼びかけます。すでに損害が生じているのであれば損害賠償の請求等もすることになるでしょう。

裁判にまで発展した場合でも、企業が受けた損害の賠償請求、または競業行為の停止命令を出すことが一般的です。退職金をまだ支給していない場合には、その不支給や減額などによって対応することもあります。

具体的な対応内容は状況に応じて千差万別ですので、弁護士などプロの意見を取り入れつつ企業の方針を決定するようにしましょう。

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