職務発明制度とは?特許法第35条、ガイドラインの内容などをわかりやすく解説

業務として研究や開発が行われている企業の場合、「職務発明制度」について理解しておくことが大事です。ここでは職務発明制度を理解するため、特許法第35条やその解釈を手助けするガイドラインのことにも言及していきます。

目次

職務発明制度(特許法第35条)とは

特許法では、発明の利用や保護を図ることでこれを推進、産業が発達することを目的とした法律です。同法では特許に関する基本的なルール、出願や審査、特許権のことなどが規定されています。

全204条からなる法律で、特許やその出願に関するルールは第2章(第29条から第46条)の中に置かれています。さらにその中には職務発明に関する規定、第35条があり、同条のことを「職務発明制度」と呼ぶことがあります

同制度は、企業などの使用者が組織として行った活動も日本の知的創造に大きな役割を果たすと捉え、開発への投資を安心して積極的にできる環境を提供することを目的に定められています。

同時に、発明を直接行う従業員に関しても、企業から適切な評価・待遇を受けることを保障するという意味合いも込められています。

つまり、従業員がした職務発明について、その権利関係や経済上の利益の取扱い方を定め、互いの利益のバランスを図ろうという趣旨です。

実務上は、就業規則にて職務発明規定を置いてその内容に従った運用をすることになります。しかし職務発明規定はこの職務発明制度をベースにしているものであり、当該制度はまず守らなければならない前提として機能します。

原則として権利は発明者に帰属:第1項

特許法第35条1項では以下のように規定が置かれています。

使用者、法人、国又は地方公共団体(以下「使用者等」という。)は、従業者、法人の役員、国家公務員又は地方公務員(以下「従業者等」という。)がその性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明(以下「職務発明」という。)について特許を受けたとき、又は職務発明について特許を受ける権利を承継した者がその発明について特許を受けたときは、その特許権について通常実施権を有する。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121

同項では、従業員が特許の出願をできるのであり、企業は「通常実施権」を得るとあります。通常実施権とは、従業員の発明した技術によって開発製造などをする権利を言います。

つまり、その技術を利用させてもらう権利に留まるのであり、その技術に関して他社とライセンス契約を締結するなどの行為はできません。

職務発明規定があれば企業に帰属させられる:第3項

第1項では原則として発明者に出願権があるとしていましたが、第3項では企業に権利が帰属する旨の規定を置いてもその規定は有効であるとあります

従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121

就業規則に定めを置くのがよくあるパターンですが、個別に契約をしても有効ですし、形式的な要件は定められていません。いずれにしろ、事前に企業側がこういった対策を取っておくことで、特許を受ける権利はその発生時点から企業に帰属することになるのです。

企業としてはこのルールを受け、適切な定めを置くことが重要と言えるでしょう。

なお、同項の「契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたとき」とは、権利の発生前を指します。発明の完成前に従業員と約束を交わさなければなりません。

また、必ずしも明文の書面であることも求められていません。ただ、特許を受ける権利は第三者へも移転可能ですし、口約束で交わすのはリスクが大きいと考えられます。取引の安全性を確保するため、書面で明確にしておくことが大切です。

従業員には相当の利益を受ける権利が生ずる:第4項

就業規則等によって企業に権利を帰属させられると述べましたが、実質的な立場の違いから、一方的に従業員が権利を剥奪されてしまうおそれがあります。

そこで第4項では、従業員が社内規則や契約によって特許を受ける権利を取得させた場合、「相当の利益」を受ける権利を得ると定められています

従業者等は、契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等に特許を受ける権利を取得させ、使用者等に特許権を承継させ、若しくは使用者等のため専用実施権を設定したとき、又は契約、勤務規則その他の定めにより職務発明について使用者等のため仮専用実施権を設定した場合において、第三十四条の二第二項の規定により専用実施権が設定されたものとみなされたときは、相当の金銭その他の経済上の利益(次項及び第七項において「相当の利益」という。)を受ける権利を有する。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121

相当の利益の定め方に注意

企業に権利が帰属する規定や契約を交わした場合でも、「相当の利益」の内容が問題となってトラブルに発展することがあります。

同条第5項ではその内容が不合理なものであってはならないとあります

契約、勤務規則その他の定めにおいて相当の利益について定める場合には、相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況、策定された当該基準の開示の状況、相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取の状況等を考慮して、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると認められるものであつてはならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121

ただ、これだけだと、何をもって不合理と言えるのかが明確ではありません。

そこで職務発明に関してはガイドラインが策定されており、そこで具体的な判断基準等が示されています。

職務発明ガイドラインで示されていること

「職務発明ガイドライン」は法律のように裁判所を拘束するものではないため、ガイドラインの内容が絶対ということではありません。しかし事実上は裁判上もルールとして機能するため、企業の方には職務発明規定等を定める際にはガイドラインを参照することが求められます。

当該ガイドラインでは、上の同条第5項の規定における「不合理」の判断に係る法的予見可能性を高めるよう、様々な文言に対してその解釈を明確に示しています。

なお、5項では「相当の利益」について定めるにあたって以下を考慮して不合理性を判断するとあります。

  • その内容を決定するための基準の策定に際して行われる協議の状況
  • 策定された基準の開示状況
  • 決定に際して行われる従業者からの意見の聴取の状況

そしてガイドラインでは、
協議」についてメールなども含むとしていますし、
開示」について従業員が見ようと思えば見られる状態にすることを意味するとしています。
他にも「意見の聴取」に関して特定の職務発明に関わる従業員から質問や不服等を聞くことを意味するとも示しています。

他にも様々な事項が具体的に示されています。