職務発明に関する訴訟トラブルの事例を紹介

職務発明に関して、特許を受ける権利はその後の経済的利益を大きく左右するものとなるため、権利の所在を争ってトラブルになることがあります。

ここでは過去にどのような訴訟があったのか、有名な事例を紹介していきます。

目次

日亜化学工業

まず挙げるのは「青色発光ダイオード裁判」などとも呼ばれることが多い、最も有名な事例です。
これは後の特許法にも影響を与えたとされています。

この事件は、青色発光ダイオードの製造に関する技術について、日亜化学工業と発明者とで争われたというものです。原告は企業ではなく自分に権利があり、また、自分に権利が帰属することが認められないのであれば特許法第35条3項の規定に基づいて金銭補償を求めると主張しました。

提訴額は当初20億円とされていましたが、その後100億円、200億円へと増額。裁判所では第一審にて200億円が認定され、控訴審へと進みました。提訴があったのは2001年で、控訴は2004年、そして最終的には2005年に和解で決着がついています。

和解額は遅延損害金を含めて8億4391万円です。

第一審での認定額に比べるとかなり減額されており、企業側の負担はかなり軽減されていますが、それでも大きな金額です。
この事件を受け、他の企業でもルールの明文化、ルールの定期的な見直し、弁護士や弁理士などの専門家との連携について重要であるとの認識が持たれるようになりました。

ルールの明文化に関しては、「職務発明に関する権利がどのように帰属するのか」「対価はどのように設定するのか」といったことを定め、従業員に周知させることが大切です。

また、職務発明に関するトラブルは大企業のみならず技術開発を行うあらゆる企業で起こり得ることです。そのため法務部を持たない企業でも、専門家との連携を取り、適切かつ迅速な対応が取れるようにしなければなりません。

オリンパス光学工業

次に紹介するのはオリンパス光学工業(現オリンパス)の事例です。

1995年に提訴、その後1999年には控訴も行われ、さらには2001年に上告までなされた事件です。

研究開発部員の原告が光ディスク装置に関する発明をし、その発明についての「特許を受ける権利」を同社が譲り受けたのですが、それに対する対価が相当でないとのことで争われました。

当初支払われた対価額は約21万円ですが、原告は第一審で2億円、第二審で5,000万円を求めました。
同社が支払った金額は社内規則に基づくものでしたが、裁判所は「社内規則に基づく支払金額であっても相当な対価と言えないなら不足額を請求できる」「同社は当該発明によって5,000万円の利益を受け、発明者には5%の貢献度がある」などとし、250万円の対価額を認定しました。

第二審および最高裁でもこの認定は覆らず、2003年、250万円の対価額で決着がつきました。

この事例では、社内規則でルールを明文化していたにも関わらず、対価額が覆っています。企業としてはただルールを定めるだけでなく、その内容が相当と評価されるようにしなければなりません。

日立製作所

続いては日立製作所が、光ディスク読取技術に関して発明者と争った事例です。

提訴があったのは1998年、控訴は2002年、2004年には上告までなされています。

原告に対して同社は約100万円の対価額を渡していましたが、原告は9億7,000万円で提訴。第二審では2億8,000万円を請求しました。

裁判所では、第一審で3,500万円、第二審では1億6,500万円が認定されています。被告である企業側が上告をしましたが最高裁は第二審判決を支持してこの上告を棄却したのです。

この事例でも、裁判所はまず同社の特許収入を算定し、そこから発明者の貢献度を考慮して発明対価の額を認定しています。
ここでは同社の特許収入を11億7,900万円としており、貢献度を20%、共同研究であり原告の貢献度はこのうち70%であることから対価は1億6,500万円であると認定しました。

なお、この事件は「光ディスク訴訟」とも呼ばれ、外国特許も職務発明制度における「相当の対価」の対象にされたという点で特徴的であったとされています。

味の素

味の素では合成甘味料の技術に関する事例があります。

2002年に提訴、2004年には控訴がなされ、最終的には和解で解決されています。

当初支払われたのは1,000万円の対価額でしたが、原告が20億円を求め、第一審では2億円の認定。続く高裁では1億5,000万円で和解されています。

日立金属

日立金属では2002年、磁石に関する技術で訴訟が提起されています。

発明者に対して約100万円の対価額を支給していましたが、原告が9,000万円を求め提訴。

第一審で裁判所が1,200万円を認定し、これに対し2003年には控訴がなされ、最終的に1,400万円が認定されました。

その他職務発明に関する訴訟

他にも多数の職務発明に関する訴訟事例があります。キヤノンではレーザープリンターの技術に関して争われましたし、三菱電機や東芝ではフラッシュメモリーに関する技術、シャープでも液晶ディスプレイに関する技術で発明者から提訴を受けています。

なお、ここで紹介したのはいずれも2000年前後の事例です。

現在でも様々な訴訟が提起されていますが、この時期は特に職務発明に関する訴訟が頻発していました。

そこで、こういった流れを受けて特許法はより現状に即したものへと改正を続けてきたのです。

今後も特許法は改正されていきますので、企業はその内容を追い、必要に応じて専門家の力も借りながら適切な規定整備に努めるべきでしょう。

なお、現在(2021年)における職務発明制度についてはこちらのページで解説しています。

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